その時、 その場所で、 その人に寄り添う色 A Color to Embrace Individuals with Spatio-Temporal Variation
世の中にはたくさんのモノが溢れかえっている モノの数だけ「色」も存在している
私たちが日々生活している「空間」というモノは 私たちの身体を頭のてっぺんから足の裏まで 丸ごと「色」で包んでいる
私たちは常に「空間」に包まれているから
多くの人は「空間」を またその「色」を 意識して感じようとはしていない
第一部 本論 1 はじめに
目次
2 研究背景 2.1 色の歴史 2.1.1 言葉のの成り立ち 2.1.2 古代ヨーロッパの色彩の歴史 2.1.3 中世ヨーロッパの色彩の歴史 2.1.4
16 〜 18 世紀のヨーロッパの色彩の歴史
2.1.5 近代ヨーロッパの色彩の歴史 (19 世紀以降) 2.2 色の知覚 2.2.1 色と光について 2.2.2 人体と色について 2.3. 色彩心理 2.3.1 色彩心理とは 2.3.2 カラーセラピーとは 2.4 デザインにおける色 2.4.1 デザインの最中における色 2.4.2 デザインした後における色 2.5 研究の位置づけ
3 研究概要 3.1 用語の定義 3.2 研究目的 3.3. 研究フロー
4 調査概要 4.1 調査目的 4,2 調査方法 4.3 調査結果 4.3.1 10 月 19 日の調査結果 4.3.2 10 月 22 日の調査結果 4.3.3 10 月 27 日の調査結果 4.3.4 10 月 28 日の調査結果
5 分析・考察 5.1 データの整理 5.2 方角による壁色の比較分析・考察 5.2.1 方角による比較の分析 5.2.2 方角による比較の考察 5.3 天候による壁色の比較分析・考察 5.3.1 天候による比較の分析 5.3.2 天候による比較の考察 5.4 カラーチャート作成 5.4.1 カラーチャート作成方法 5.4.2 カラーチャートの見方
6 まとめ 6.1 結論 6.2 展望 謝辞 参考文献
第二部 資料編
第一部 本論
研究背景 2.1 色の歴史
2
2.1.1 言葉のの成り立ち 2.1.2 古代ヨーロッパの色彩の歴史 2.1.3 中世ヨーロッパの色彩の歴史 2.1.4
16 〜 18 世紀のヨーロッパの色彩の歴史
2.1.5 近代ヨーロッパの色彩の歴史 (19 世紀以降)
2.2 色の知覚 2.2.1 色と光について 2.2.2 人体と色について
2.3. 色彩心理 2.3.1 色彩心理とは 2.3.2 カラーセラピーとは
2.4 デザインにおける色 2.4.1 デザインの最中における色 2.4.2 デザインした後における色
2.5 研究の位置づけ
2
2. 研究背景
2.1 色の歴史
2. 1 色の歴史 2.1.1 言葉の成り立ち
文 1)
日本語の「色」という言葉は、もともと色彩の意味がなかったと言われている。万葉集にもあるように 血の繋がりがあることを表す接頭語の「いろ」として ( 例「いろせ」は兄、「いろね」は姉、「いろも」は 妹又は姉を表す)使われており、それが後にだんだんと男女の交遊や女性の美しさを称える言葉となる。 後に美しいものの一般的名称として拡大して、更にその美しさが色鮮やかさとなって、色彩そのものを指 すようになり、現在多く取り扱われている意味へと変わっていった。 漢字の「色」は「人のうしろにまた人がおり、抱く形で相交わること」を示しており、上の「ク」は人 で、下の「巴」は人がひざまずく姿だと解釈される。まさに男女の情交を意味している。
図 2-1 「色」の象形文字
8
2
2. 研究背景
2.1 色の歴史
2.1.2 古代ヨーロッパの色彩の歴史
文2)
紀元前 4 世紀頃に古代ギリシャで人類最初の色彩論が現れた。プラトンやアリストテレスが「色彩とは 何か」 ということについて書き残している。彼らの色彩論は後世のヨーロッパの色彩文化に長い間にわたっ て影響を及ぼした。 プラトンは「混色して新しい色を作り出すことは神に対する冒涜行為」とし アリストテレスは「すべての有彩色は白と黒の間に位置づける」といっている。
図 2−2プラトン(左)とアリストテレス(右)の石像
9
2
2. 研究背景
2.1 色の歴史
2.1.3 中世ヨーロッパの色彩の歴史
文 2)
中世ヨーロッパでは、プラトンの「混色して新しい色を作り出すことは神に対する冒涜行為」という考 えが受け継がれていた。例えば、黄色と青色を混ぜて緑色を作ることは行われておらず、自然物から孔雀 石などの天然緑色顔料やクロウメモドキの実から作られたサップグリーンなどの葱の汁で代用していた。 したがって、ヨーロッパでは他の地域よりも豊富な種類の着色材料が発見されている。
図 2-3
孔雀石
図 2-4 クロウメモドキの実 http://www.swingcafe.net/green_web/index.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%94%E9%9 B%80%E7%9F%B3
10
2
2. 研究背景
2.1 色の歴史
2.1.4 16 世紀〜18世紀のヨーロッパの色彩の歴史
文 2)
16 世紀〜 18 世紀はルネッサンスの時代であり、レオナルド・ダ・ヴィンチが現れ、解剖学や透視図法、 明暗画法などの新知識に基づいて、対象を忠実に表現するヨーロッパ独特の美術が始まった。そして更に この時代から使用され始めた油絵の具によって、混色による写実的表現が可能になり、神話や聖書までも 実在感をもって描かれるようになった。 大航海時代が始まると、いろいろな資源がヨーロッパにもたらされた。中にはコチニール介殻虫を原料 とするカーマイン染料などの着色原料も含まれ、この時代の絵画論には、絵の具や染料の種類やそれまで にはなかった混色技法や、色彩の対比現象、色彩調和についての記述も見られる。 17 世紀になると光に関する化学的研究が始まり、ケプラー、スネル、ホイヘンスなどによる光学研究 はニュートンのスペクトル発見に結実する。光に関する関心は、画家達にも共有され、カラヴァッジオ、ルー ベンス、 レンブラント、 ヴェラスケスなどにつながるバロック美術が生まれた。フェルメール、ジョルジュ・ ド・ラトゥールなども 17 世紀の代表的な光の画家である。絵画表現に光と闇を対比させ、初めて光学的 に正確な明暗画法を実現したのは、バロックの画家達であった。
図 2-5 レンブラントの『夜警』(1642 年)
図 2-6 フェルメールの「牛乳を注ぐ女」 (左) 「真珠の耳飾りの少女」 (右)
画面が黒ずんでいるが、実際には左上から光が差し込んでおり、
彼のなかで左から光が差す室内に立つ女性というテーマはおなじみのもの
昼の時間が描かれている。 http://www.salvastyle.com/menu_baroque/rembrandt.
http://www.salvastyle.com/menu_baroque/vermeer.html
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2
2. 研究背景
2.1 色の歴史
1704 年にはニュートンの「光学」が発行された。 ニュートンは著書「光学」の中で「色彩は光そのものである」と述べた。それはつまり彼がそれまで誰 もが気付かなかった全く新しい「色は物体についているものではなく、物体に当たっている光の中にある」 という理論を示している。彼はプリズムという三角形のガラスに、太陽の光を当てて、たくさんの色の光 の帯を壁に映し出し、光の中に含まれている色を分解して見せた。ニュートンは、この光の帯をスペクト ルと名づけ、大きく赤、橙、黄、緑、青、藍、紫に分類した。 彼の実験は、ガラス・プリズムで分けら れた色の光一つひとつを、同一の物体表面を照明して観察するものである。例えば、白い物体に赤色光で 照らすと赤く輝き、赤い物体に緑色光を照らすと黒くなって見えることを見い出した。ニュートンは、こ のような実験からどのような物体の色も、照明光の色によって変わって見えるという現象を発見したので ある。
図 2-8 太陽のスペクトル
図 2-7 ニュートン(1642 〜 1727)
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ニュートンの「光学」が発行されてから、スペクトル光による混色実験が行われるようになった。そし て初めて補色の認識が生まれた。補色とは正反対に位置する関係の色の組合せである。例えば、 「赤 / 青緑」 「橙 / 青」 「黄色 / 青紫」などがあげられる。また、美術家や工芸家は色料の混合から経験的に三原色を意 識し、18 世紀末にフランスの印刷業者ル・ブロンが世界で初めて赤、黄、青の三原色によるメゾチント 印刷に成功した。
12
2
2. 研究背景
2.1 色の歴史
2.1.5 近代ヨーロッパの色彩 (19 世紀以降)
文2)
19 世紀、ヨーロッパの時代的関心は、主に人間の視覚に向けられた。それにより、ニュートンの「光学」 に対する批判から、主観的な色彩現象に注目したゲーテやショーペンハウアーの色彩論が発表される。中 でもゲーテは自らの著書である「色彩論」の中で、特に色彩の持つ生理的、感覚的、精神的な作用につい て述べている。ニュートンが完全に物理的色彩論であったのに対して、ゲーテは人間にとっての色彩の見 え方について述べているという点に相違がある。ゲーテは「人間が色によって何を感じ、それによってど んな精神的作用を受けるか?」 ということを意図していたのだと推測される。そしてそれは最近になって、 「知覚心理学」や「色彩心理学」の分野で脚光を浴びることとなる。
図 2-9 ゲーテ(1749-1832)
図 2.-10 ゲーテが 1809 年に描いた色彩環(ゲーテミュージアム所蔵)
19 世紀初めにはヤングの三原色仮説が発表される。これは「目が色彩を捉えるのは目の中に赤、緑、 青紫の 3 つの色に感じる視細胞があるためである」というもので、今のカラーテレビのRGB画像の原 点である。さらに、1870 年代には、へリングの反対色説が発表され、その他にもプルキネ現象、ベゾル ド - ブリュッケ現象など、人間の色覚に関する研究や、シュヴルールの色彩の同時対比の法則も発見され た。
13
2
2. 研究背景
2.1 色の歴史
1879 年にアメリカの自然科学者ルードの「現代色彩学」が発行される。彼は樹木の葉や花弁が、日向の 部分は黄みを帯びて、日陰の部分は青紫みを帯びて見える現象について論述している。このような日向と 日陰という隣接する二つの部分 = 色相を、 「自然な色の連続」として我々が認知できるということが、す なわち「色が調和している」ということになる。この自然界の色の見え方に基づく配色調和の考え方を「色 相の自然連鎖 =Natural Sequence of Hues」といい、それに沿った配色方法を「自然な調和:ナチュラル・ ハーモニー」と呼ぶ。
文3)
図 2-1 1 ナチュラル・ハーモニーの配色例
19 世紀は、分析から合成の科学へ移行しつつあり、この時代に新しい合成無機顔料が次々と発見された。 1856 年には、イギリスの科学者パーキンにより世界初の合成化学染料が発見された。 これにより、ヨーロッパの語彙は飛躍的に増加し、20 世紀前半に編纂された色名辞典に収録された何千 語もの色名の 80%以上はこの時代以降に発生した。 視覚に関する時代的関心は芸術分野にも波及し、シュヴルールやルードの著書に影響を受けた印象派の モネ、ゴッホ、セザンヌ等の画家達は美術における色彩革命の開始を宣言した。
図 2-12 リンゴとオレンジ 1895-1900 年 セザンヌ
図 2-13 睡蓮
図 2-14 ひまわり
1916 年 クロード・モネ
1888 〜 1890 年 フィンセント・ファン・ゴッホ
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impressionism/cezanne.html
impressionism/monet.html
impressionism/gogh.html
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2. 研究背景 2. 研究背景
2.2 色の歴史 色の知覚 2.1
2.2 色の知覚 2.2.1 色と光について
文5)
色のことを考えるには色と光について深く理解する必要がある。 それは光がない世界に、 「色」は存在しない、 また光がない暗闇の中では、 「色」はもちろんのこと、モノの形を認識することさえできないからである。 ■色の感覚を引き起こす光 磁波の一種である光は、人間の眼に入り、 「色」を認識する感覚を引き起こす。光自体は「色」ではなく、目 が光の強弱と波長の相違を刺激として感じ、脳が働いて、 「色」の識別につながるのである。電磁波の中で、人 間の目に見える範囲を「可視領域」といわれている。この可視領域の波長の幅は、360 ~ 400nm から 760 ~ 830nm と、極めて狭い範囲である。
図 2-15 可視領域
人間の目に見える光(可視光)は、 「赤・橙・黄・緑・青・藍・紫」の虹の7色に分けて表現されている。白色 の太陽光をプリズムで分けるとその7色になるので、その光の帯は「太陽光スペクトル」と呼ばれている。
図 2-16 太陽光スペクトル
15 15
2
2. 研究背景 2 研究背景 2. 研究背景
2.2 色の歴史 色の知覚 2.1 2 .1 色について
人間と他の動物では、可視領域が異なる。
文 6)
例えば、昆虫の可視領域は、約 300nm ~ 600nm で人間
よりも紫に寄っており、赤の波長を感じることはできないが、人間には見えない紫外線を見ることができ る。この昆虫の性質から昆虫に蜜を提供して花粉を運んでもらう花は、虫に見つけてもらいやすいように、 花の色を進化させ,人には見えない近紫外線領域で,人の可視光の範囲とは異なった模様を持っているも のが多い。フラボノイドという物質は紫外光を吸収する物質である。白いキクを初め、ユリなどの花にも 含まれており、紫外線を感じることの出来ない人間の目にとっては白色に見えるが、チョウやハチなどの 昆虫はこのフラボノイドの色を感知できるので、結果誘引することができる。
図 2-17 普通のカメラ(左)と紫外線カメラ(右)で撮影したひまわり http://www.fukuoka-edu.ac.jp/~fukuhara/ uvir/hana_uv.html
図 2-18 普通のカメラ(左)と紫外線カメラ(左)で撮影した菜の花 http://berno.tp.chiba-u.jp/lectures.files/ Biophotonics/08/4Insect.pdf
16 16
2
2. 研究背景 2. 研究背景
2.2 色の歴史 色の知覚 2.1
2.2.2 人体と色について
文4)
■ 眼の構造と役割 眼は、入ってきた光を色情報に変換し、その情報を脳へ送るという、大切な役割りを担っている。眼 は、直径約 24mm の白い球体で、強膜、脈絡膜、網膜で覆われている。光が対象物から反射して眼に入り、 その刺激の情報が脳へ送られて、 「色の識別」につながるのである。 眼の構造を理解するには、同じく光に応答するカメラのシステムと比較すると分かりやすい。カメラの レンズに相当する水晶体と角膜によって焦点距離を調節し、カメラの絞りに相当する虹彩によって、入っ てくる光の量を調節する。さらに、写真フィルムに相当する網膜の視細胞によって、光(色)を感じるの である。
図 2-19 光が脳に達するまでの流れ
図 2-20 眼とカメラの構造の比較図
17 17
2
2. 研究背景 2. 研究背景
2.2 色の歴史 色の知覚 2.1
■ 網膜の機能 網膜には、眼に入ってきた光を色情報に変換する役割がある。厚さ 0.3 mmの透明膜で、数種類の細胞 からなる複雑な構造をしており、光は表面層を通過して、感光性を持つ視細胞に到達する。表面層は、最 奥にある視細胞からの信号を受けて脳に伝達する神経節細胞で覆われている。その他、アマクリン細胞、 双極細胞、水平細胞が中層部にあり、視細胞から神経節細胞へ信号を効率よく伝達する大切な役割を担っ ている。 感光性をもつ視細胞には、比較的暗い所で明暗だけを知覚する杆状体(かんじょうたい)と、比較的明 るい所で赤(R) ・緑(G) ・青(B)の刺激に反応する錐状体(すいじょうたい)の 2 種類がある。網膜は、 カメラのフィルムに例えると、 高感度の白黒フィルムと中程度のカラーフィルムからできているといえる。
図 2−22 杆状体と錐状体
図 2-21 網膜の構造
18 18
2
2. 研究背景 2. 研究背景
2.2 色の歴史 色の知覚 2.1
■ 明るさの感度 視細胞の働きを理解すると、 「色」を判別する上で、光量が大きく影響していることがわかる。私たち の生活の中の自然光と人工照明の明るさは、かなりの広範囲となっている。
図 2−23 明るさの目安
私たちが感じる広い照度範囲に順応するために、人の眼は、虹彩によって瞳孔の大きさを変え、眼に取 り込む光量を調節している。しかし、瞳孔径の変化だけでは不十分なのである。したがって、前述のよう に杆状体と錐状体で役割りを分担し、網膜自体の感度を大幅に変えて「色」を感じているのである。
図 2−24 杆状体と錐状体各々の比視感度と波長のグラフ
19 19
2
2. 研究背景 2. 研究背景
2.2 色の歴史 色の知覚 2.1
ごく暗い光で、杆状体のみが働く状態を「暗所視」、薄明るく、杆状体と錐状体の両方が働いている状 態を「薄明視」 、明るく強い光で、錐状体のみが働く状態を「明所視」という。「暗所視」「薄明視」「明所 視」と移行するのにともなって、同じ物体でも、「色」の見え方が変わる。昼間は赤や黄を鮮やかに感じ、 青や緑は黒ずんで見える。夕方は逆に、青や緑が鮮やかに見え、赤や黄が暗く見えるようになるのである。
図 2-25 明るい場所と暗い場所での色の見え方の違い
20 20
2
2. 研究背景 2. 研究背景
2.2 色の歴史 色の知覚 2.1
■ 色覚モデル 現在、人間の眼は、どのような仕組みで「色を知覚」しているのかについては諸説存在する。これまで に明らかになっているのは、ヤング・ホルムヘルツの「3原色説」と、ヘリングの「反対色説」である。 しかし今日では、 「3原色説」と「反対色説」を複合させた「段階説」が有力になっている。 ・3 原色説 網膜には赤(R) ・緑(G) ・青(B)に応答する3種類のセンサーがあり、その応答量の割合で色を感じ 分けるというのが、 「3原色説」の考え方である。 3原色説は赤・緑・青の光の混合で、ほとんどの色が再現される。これは実験に基づいており、理論的に 導き出されたものではないが、現在のカラーテレビ、写真、印刷などは全て、3原色説に基づいて開発さ れている。それらの色再現が十分に満足できるものであることから、極めて現実的で有力な仮説と考えら れてきたのである。
図 2−26 三原色説におけるセンサーの感度
21 21
2
2. 研究背景 2. 研究背景
2.2 色の歴史 色の知覚 2.1
・反対色説 「網膜には、赤-緑、黄-青、白-黒に応答する3種類のセンサーがあり、その応答量の割合で色を感じ 分ける」というのが、 「反対色説」の考え方である。これは「黄色味の赤色はあるが、緑色味の赤色はな く、緑色と赤色は反対の位置にある反対色である」と考えられる経験的事実に基づいている。「反対色説」 では基本的な色として、赤・緑・黄・青の4種類を考えるので、「4色説」とも呼ばれている。
図 2-27 反対色説における反対色の分光感度の相対比と各反対色の関係性のモデル
22 22
2
2. 研究背景 2. 研究背景
2.2 色の歴史 色の知覚 2.1
・段階説 「3原色説」と「反対色説」は、それぞれさまざまな色覚現象を矛盾なく説明できている。したがってど ちらが網膜の中で実際に起きている現象であるかは判断できない。そこで近年の測定技術の進歩によって 実際に目で起きていることが実証できるようになり、ある実験では錐状体の3原色応答がはっきりと記録 され、 「3原色説」こそが、色覚の仕組みの説明に最適であるとされてた。しかし、別の実験では、明る さの応答と反対色の応答を示した。これらの事実から「錐状体では3色応答が存在し、そこで発生した電 気信号が視細胞の中層部にある各種細胞によって、反対色説に従うような信号処理を施されて、脳に伝達 される」と、考えられるようになったのである。 さらに、暗所視で働く杆状体も一部の機能を担っていることが実証された。結局、現在一般的には「網 膜に存在する3種の錐状体と杆状体が、巧みに役割り分担と協働作業を行い、私たちの活動範囲における 広い明るさと色の変化に対応して、視覚をコントロールしている」という考え方がされている。従って人 の眼は最初に3原色応答で色を感じ、それを反対色応答の信号に変換して脳へ伝達する「段階説」が有力 とされているのである。
図 2-28 段階説のイメージ
23 23
2
2. 研究背景 2. 研究背景
2.2 色の歴史 色の知覚 2.1
■外部情報の中の色
文 6)
人間は外部から情報を受け取る際、最も色に影響されている。理由としては大きく2つ挙げられる。 1つ目は人は五感の中で視覚に最も影響を受けるということである。 人間は、外部の状況を、五感を通じて刺激として受け入れ、それ以前に体内に蓄積していた様々な記憶と 結び付け、イメージを作り上げる。こうして作られたイメージは、また記憶として体内に蓄積されること になる。しかし、外部情報を受け入れる器官である「目・耳・鼻・膚・口」は、受け入れる情報の量や処 理速度が異なる。外部情報を五感が受け入れる比率は一般的に視覚87%聴覚7%触覚3%嗅覚2%味覚 1%と考えられている。また、五感に対して、人間がどの様な評価をしているかは過去の調査で以下のよ うに明らかになっている。 ◇五感の中で最も言葉で伝えやすいのは、 視覚(75.7%) 、味覚(9.9%)、触覚(6.7%)、聴覚(6.0%)、臭覚(1.9%) ◇五感の中で最も言葉で伝えにくいものは 臭覚(35.8%) 、触覚(23.2%)、味覚(18.3%)、聴覚(17.0%)、視覚(5.8%) ◇五感の中で最も長く記憶に残るものは、 視覚(71.9%) 、聴覚(13.8%)、味覚(7.5%)、触覚(3.8%)、臭覚(3.1%) ◇五感の中で最も思い出をよみがえらせるものは、 視覚(74.3%) 、聴覚(11.8%)、触覚(4.8%)、味覚(4.6%)、臭覚(4.6%) ◇五感の中で最も感動を覚えるのは、 視覚(72.6%) 、聴覚(17.6%)、触覚(6.4%)、味覚(3.0%)、臭覚(0.5%) いずれの調査結果も視覚の影響力が圧倒的に優位にあることがわかる。したがって人は五感の中で視覚 に最も影響を受けているのである。 2つ目は視覚情報の中で影響力があるのは色の情報であるということである。 視覚は形態覚、運動覚 、色覚、明暗覚で構成されている。つまり対象の大きさや形、運動、色彩、明る さを知覚する器官といえる。そしてこの視覚情報の80%以上が色の情報であるということがわかってい る。従って視覚情報の中で最も影響力があるのは色の情報である。 以上の2つの理由から人間は外部から情報を受け取る際、色に大きく影響されることがいえる。
24 24
2
2. 研究背景
2. 3色彩心理
2.3 色彩心理 2.3.1 色彩心理とは
文 7)
色彩心理学とは、2−2で述べたゲーテの色彩論や空海が提唱している色に関連する東洋的な理論を基 準にしているもので、光の色彩の本質を研究する学問のことをいう。そして心理学や色彩学、哲学、倫理 学、宗教学などはもちろんのこと、他にも社会学や生理学、史学、文学、天文学、自然科学、文化人類学 などといった人間の発達に関連する総合的な研究を含んでいる学問からも検証して研究を行う。 またこの学問はその人の歴史的な背景なども考慮しながら、色彩が光と色であるという視点からも研究 や検証をおこなう必要性があると言われている。つまり、青という色を考えた場合には、その色が好きか どうかということから、 その色を使っている空や海などの光景を思い浮かべることができると考えられる。 しかし人間は日常生活上における見るという行為から、青という色に対してもさまざまな印象を感じとる ことができる。例えばきれいな青や暗い青、好きな青や嫌いな青などのさまざまな感じ方を持っていると 考えられている。
25
2
2. 研究背景
2. 3色彩心理
2.3.2 カラーセラピーとは
文 8)
カラーセラピー(色彩療法)とは色彩心理学に基づき色のもつ力を利用するセラピーである。 ■カラーセラピーの歴史 カラーセラピーというと近代的なイメージが持ちやすいが、意外にもその歴史は古い。古代文明の時代か ら多様されていた。 <エジプト> 古代エジプトの寺院では太陽光を使いそれぞれの部屋に特定の色の太陽光が差し込むような光をスペク トル別に分けられるよう調整した部屋を作り、その光を用いて治療していたと言う記録が残っている。こ れは当時のエジプトが太陽のことを太陽神ラー (Ra) として崇めていた背景による。エジプトでは太陽の ことを「ラー」と呼ぶように、ラーは太陽そのものであり、朝に東から昇り、夕べに西の空へ沈んでいく、 一日のうちに死と再生を繰り返す不死の存在と考えられている。そのため古代エジプトの宗教観には強い 影響力を持っており、死者の書には、太陽神の死と再生、および死者による祈りや太陽神の援助を請う祈 りが、くりかえし登場する。
図 2-29 太陽のもとで王妃に化粧をされるツタンカーメン
図 2-30 太陽神ラー (Ra)
<インド> インドでは 5 千年前から続くアーユルベーダと言う思想 ( 伝統医療 ) の中で人間のエネルギースポット ( チャクラと呼ばれる一種のつぼのような部分 ) をそれぞれ色分けし治療に活用していた。
図 2-31 チャクラの種類
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2. 研究背景
2. 3色彩心理
■色彩心理からみた各色の性質
文 9)
色にはそれぞれ精神的、身体的に異なる影響を与えていることがわかっている。 ここでは、その代表的な色の性質をまとめた。 赤 人をエネルギッシュに、積極的にさせる 体感温度を上昇させ、血流がよくなる イライラさせたり落ち着きをなくす 青 呼吸を穏やかにする ストレスを緩和する 気分を落ち着かせ理知的にさせる 時間を短く感じさせる 気分を寛容に他者を受け入れやすくする 黄色 交感、副交感神経を刺激させ注意を喚起する 思考能力を高め、数学的なセンスや論理構築能力を活性化させる 不安を解消する 食欲増進させる 消化や便通をよくする
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2
2. 研究背景
2. 3色彩心理
緑 穏やかな気持ちにさせる 毛細血管を拡張して体温を下げ、高血圧を緩和する 神経や筋肉の緊張をほぐし、リラックス効果をもたらす 協調性をもたせる 橙 心を暖かくつつんでくれる 食欲増進させる 人を呼び寄せ、楽しい気分にさせる 動作を活発にして、血圧を上げ、活力を与える 紫 感受性を高め、情緒豊かにさせる 内面的なバランスを整え、肉体的な安らぎをもたらす 桃色 幸福感を感じさせる 優しい気持ちにさせ、余裕をもたせる 疲労感を軽減させる 卵巣ホルモンの分泌に役立ち髪や肌を美しく保つ
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2. 研究背景
2. 3色彩心理
■現在の事例 現在、カラーセラピーを利用した試みは数多くある。ここでは例として3つ挙げる。 <バブルガム・ピンクの刑務所>
文 10)
ピンク色の一種( バブルガム・ピンク )が身体的に効果を発揮し、とても苛立った神経を数分で鎮め ることを発見された。それにより、シントン州タコマの臨床心理学者であるアレキサンダー・シャウスに よってアメリカの刑務所では、バブルガム・ピンク色の独房が使われるようになった。以後、暴力的行為 や攻撃的な行為の発生が激減した。この事例基づき、現在世界各地の刑務所でバブルガムピンク色が採用 されている。また2013年スイスのマリコパ郡刑務所では、「クール・ダウン・ピンク」というプロジェ クトに基づき、30 の監房、さらに囚人服をピンクに変更した。この事例により色には人間の気分を変え る効果があることが示された。
図 2-32 クールダウンピンクの様子
29
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2. 研究背景
2. 3色彩心理
<黒い箱>
文 11)
アメリカの色彩心理学者L・チェンスキンはある工場で色の重量感に関する実験を行った。黒い箱の荷 物を運んでいたその工場で、工員達からその箱が重いとの苦情があった。荷物の重さは変えず、黒い箱を ライトグリーンの色に塗り替えた。すると、工員達から、軽くて運びやすくなったとの意見が報告された。 この実験に基づき、重量感を感じてしまうという心理的ストレスを軽減するため軽さを感じる白色のダン ボールが増えてきている。この事例により色には人間の物体に対する印象を変える効果があることが示さ れた。 <フルスペクトルの光>
文 12)
アメリカの光生物学者ジョン・オット 博士は、さまざまな蛍光灯のもとで飼育された動物の寿命と、 自然光のもとで飼育された動物の寿命とを比較測定する実験を行った。その結果、ピンク色の蛍光灯また はデイライトホワイト蛍光灯のもとで飼育されたマウスの平均寿命はそれぞれ 7.5 ヵ月、8.2 ヵ月だった のに比べ、自然光( フルスペクトルの光 )のもとで飼育されたマウスははるかに健康であり、平均して 16.1 ヵ月も生存した。この事例によって、色は人間の身体的な健康状態に影響があることが示された。
30
2
2. 研究背景
2. 3色彩心理 2.4 デザインにおける色
2.4 デザインにおける色 2.4.1 デザインの最中における色
建築や車、衣服など様々なプロダクトデザインの色を決定する時の指標になるのがカラーチャート、ま たは色見本と呼ばれる色の見本である。カラーチャートでは色を色相、彩度、明度等の要素で分類し、色 名とともに色をカタログのようにまとめたものである。 現在プロダクト別に様々なカラーチャートが存在する。 以下、代表的なモノを列挙した。 DIC カラーガイド
文 13)
DIC の製品。特に日本で印刷用インクの特色のマッチングに使われる。 日本塗料工業会標準色
文 14)
日塗工あるいは JPMA 標準色。日本塗料工業会が定める塗料の色標準。現在の日本の塗料の色標準、こ の標準番号を使えばメーカーからその色の塗料が購入できる。 PANTON
文 15)
米国の企業、PANTON 社の製品。デザイン、工業、繊維、建築分野などで広く使われている。 RAL
文16)
ヨーロッパで使われている規格。"Classic" と "Design" がある。
図 2-33 DIC カラーガイド
図 2-34 日本塗料工業会標準色
図 2-36 RAL の色見本
図 2-35 PANTONE カラーチャート
31
2
2. 研究背景
2. 3色彩心理 2.4 デザインにおける色
2.4.2 デザインした後における色 服屋で服を試着した時と購入後家で着た時とで印象が変わってしまったことはないだろうか。服に限っ たことではなく、何かしらの製品を手に入れる前と手に入れた後とでイメージが異なるということはよく ある話だ。通販などで写真をみて製品を選ぶ場合は実物を目にする訳ではないので、イメージと現実に差 があるものとして、大きさや形状などが挙げられる。しかし、実際に店頭で手に取ってみても、印象が変 わってしまうことがある。その原因は色味が変化していることであると一般的にいわれている。物体色は 光源の状態によって変化するので、店頭とは異なる照明環境の場所では当然製品の色は変わってしまうと いうわけだ。 現在では様々な照明ががあるが、それらを光源として考えた場合、大きく二つに分けることができる。 その二つとは自然光と人口照明である。つまり太陽によるものか、又は人間がつくった電気によるものか である。 またこの二つを比較した際にあげられるのが、時間によって可変か否かということである。太陽光は地 球の自転により傾きが変化して、光の入る量、屈折の仕方などで明るさや光の色も変化する。対して人口 照明は何らかの操作を加えなければ、定量の電流を絶えず流し続けるので、明るさや光の色は変化しない。 したがって太陽光に影響をうける場所であれば、時間によって製品の物体色が変わるといえる。 図 2-33 は同じ景色を一日のうちで一定時間おきに撮影してコラージュしたもので一目で時間の移り変 わりによって色が変わっていることがわかる。
図 2-33 同じ場所をさまざまな時間で撮影したものをコラージュした写真 http://fqwimages.com/time-dimension/
32
2
2. 研究背景
2.5 研究の位置づけ
2.5 研究の位置づけ
既往の研究から本研究の位置づけを捉えた。 ■人と色の関係についての研究 斎藤ら
文 17)
は近年色の身体的効果に関する研究が少ないという事実に着目し、色光が人間に与える身体
的・精神的効果及び、両者の関連性を検討した。その結果色光がそれぞれ人間の身体・精神に特定の影響 を与えることを示唆した。 この研究は色が人間に与える影響について関係を研究したものであるが、本研究ではそれをふまえた上 で、特に室内の壁色がひとにどのような影響を与えるかについて考えていく。 ■カラーサンプルについての研究 高木ら
文 18)
は実空間と同じ印象となるカラーサンプルの大きさを検討し、インテリアデザインにおいて
基準となるサンプルの大きさを提示するための研究を行った。その結果、適切だと考えられるサンプルの 大きさは、橙や緑などの色においては 500mm 角、または 750mm 角であるとう知見を得た。 この研究は空間における色のイメージとリアルを近づけるのに妥当なカラーサンプルの大きさを研究し たものである。 本研究では色は変化するものとして捉え、一日の時間の流れによる色の変化がわかるカラー サンプルを提案した。 ■時間、天候による様相の変化についての研究 畠山ら
文 19)
はこれまでの多くの都市景観の調査・研究は日本の大部分が位置する温暖地域を対象にし、
春から夏の間で晴天時の昼間を対象としてきたことを一般社会の常識と照らし合わせて妥当とした。しか し我々日本人が昔から情緒や特別な感情を抱いてきたのは、秋景色、雨の景色であると考えそのようなあ る種、特別な景観に着目して、季節、天気、時間による景観の様相の変化について研究し、それらの変化 をまとめあげた。 この研究は季節、天気、時間による景観の様相の変化について研究したものであるが、本研究では方角、 天気、時間による室内の壁色の変化について研究した。
33
3
研究概要 3.1 用語の定義 3.2 研究目的 3.3. 研究フロー
3 3.研究概要
3.1 用語の定義
3.1 用語の定義
■ RGB R(red: 赤 )、G(green: 緑 )、B(blue: 青 ) の光の三原色を組み合わせて、一つの色を指し示す、色の表現方法。 ディスプレイ上の色はすべて RGB で決定されている。 ■明度 色の 3 属性の一つで、色の明るさの度合いを示す数値である。数値が高いほど色は明るみを増すこと を示していて、明度 100% は白、0%は黒となる。明度は RGB の値から以下の計算行程で求められる。 V= 明度 (value) Imax = Max(R,G,B) Imin = Min(R,G,B) とする
V=Imax
■彩度 色の 3 属性の一つで、色の鮮やかさ、色味の強さの度合いを示す数値である。無彩色が彩度 0 の状態 である。彩度は RGB の値から以下の計算行程で求められる。 S= 彩度 (Saturation) Imax = Max(R,G,B) Imin = Min(R,G,B)
とすると S = (Imax – Imin) / Imax
■輝度 光源の明るさ、輝き、まぶしさの度合いを示す数値である。数値が高いほどその物体はまぶしいという ことを示している。輝度は RGB の値から以下の計算行程で求められる。 L =輝度 (Luminance) とすると L = ( 0.298912 × R + 0.586611 × G + 0.114478 × B ) ■色相 色の 3 属性の一つで、色合いを示す。色合いの違いというのはいわゆる赤、緑、青などの違いである。 色相は RGB の値から以下の計算行程で求められる。 H= 色相 (Hue) Imax = Max(R,G,B) Imin = Min(R,G,B)
とすると
R = Imax のとき
H = 60 × (G – B) / (Imax – Imin)
G = Imax のとき
H = 60 × (B – R) / (Imax – Imin) + 120
B = Imax のとき
H = 60 × (R – G) / (Imax – Imin) + 240
35
3
3.研究概要 3.1 用語の定義
色相は、360 度の円環で表し、 0°、60°、120°、180° 、240° 、300°の順に、赤、黄色、緑、シアン、青、マゼンダと配置されている。 本研究において、論じやすいように 60°の幅で色相の領域を設定した。 0° 〜 60° R 領域 60°〜 120° Y 領域 120°〜 180° G 領域 180° 〜 240° C 領域 240°〜 300° B 領域 300°〜 360° M 領域 図 3-1 が色相の領域のイメージ図、図 3-2 が色の三属性、明度、彩度、色相の関係をまとめたものである。
図 3-2 明度、彩度、色相の関係性
図 3-1 色相の領域のイメージ図
■壁色モデル 本研究において壁に配置し撮影観察した 14 色の被写体を「壁色モデル」と呼称することにする。また壁 色モデルの中の一色を指し示す場合、 「壁色モデル○○」と呼称する。ただし、○○には指し示す一色の 色名が入る。
36
3
3.研究概要
3.2 研究目的
3.2 研究目的
一日の時間帯の移り変わりによる、室内の壁色の変化の仕方を明らかにし、その様子を従来の形態とは 異なるカラーチャートとしてまとめる。また、そのカラーチャートを用いれば、ライフスタイルが豊かに なるという可能性を示唆することを目的とする。
37
3
3.研究概要
3.3 研究フロー
3.3 研究フロー
身の回りの色ってなぜその色になったのだろうか?
FIRST QUESTION 現在の空間における
色が人にどのように
色の決定のされ方のリサーチ
どれくらい作用しているのかをリサーチ
文献調査
色彩心理 色が人間に精神的、生理的に どのような影響を及ぼしているのか
文献調査
人体と色
色は実際空間の中で
従来のカラーチャートは
人の目がどのように色を認識しているか
どのように見えているのか
どのように使われているのか
background 色は時間によって
色味によって精神的、身体的に異なる影響を人間に与えている。
違う色に変化している。
時間によって色は人間に異なる影響を与えている
今までのカラーチャートでは 限られた状態のある一色しかわからない
「色によってより豊かなライフスタイルを送るためには 仮説の設定
hypothesis
時間の移り変わりによる色の変化がわかるカラーチャート必要である。」
・時間変化に伴う色彩変化の データ収集
本調査
research
壁紙モデルをビデオカメラで撮影
時間変化に伴う色彩変化の把握 本調査の動画を 10 分毎の画像に変換
analysis
RGB 値を抽出しそれを明度、彩度、色相、輝度に変換し分析
時間軸のあるカラーチャートを作成 天候、方角などの条件と時間軸を設定したカラーチャートを 分析結果から導きだす
作成したカラーチャートを用いて
prospect
ライフスタイルが豊かになる可能性を示唆する
38
4
調査概要 4.1 調査目的 4.2 調査方法 4.3 調査結果
4.3.1 10 月 19 日の調査結果 4.3.2 10 月 22 日の調査結果 4.3.3 10 月 27 日の調査結果 4.3.4 10 月 28 日の調査結果
4
4. 調査概要 4.1 調査目的
4. 1調査目的
室内の壁紙について、一日の時間帯、天気や方角によってどのように色が変化しているかを 記録しカラーチャートを作成すためのデータを収集する事を目的とする。
40
4
4. 調査概要 4.2 調査方法
4.2 調査方法
■調査内容 4 方位を壁に囲まれた室内で窓がある面を除いた3面の壁に、12色相環に基づき作成した色 彩モデル(図1)設置し、それをビデオカメラで撮影し記録分析する。 ■調査場所 自宅(東京都練馬区の5階建てマンションの3階 1K) ■調査日時 2013 年 10 月 19 日、22 日 午前5時30分から午後 5 時 3 0分(日の出前から日の入り後 まで) ■調査器具 ビデオカメラ3台(canon iVIS HF S21/ sony HDR-SR8 /sony DCR-SR100) 三脚3台 壁色モデル3枚(図 4-1) を使用した。 ( 配置の仕方は図 4-3 を参照 ) 壁色モデルには12色相環にづき以下の1マス 30 × 30mm の大きさの11 色の有彩色と3色 の無彩色(黒、灰色、白)の計 15 マスを採用した。
図4−1 壁色モデル
図 4-3 実際の撮影風景
図 .4-2 調査器具配置
41
4
4. 調査概要 4.3 調査結果
4.3 調査結果 4.3.1 10 月 19 日の調査結果
調査で撮影した動画はフリーソフト「free jpeg converter」を使用して 10 分毎に一枚の jpeg 画像に変換して分析を行った。この章では全データの一部である 1 時間毎の画像とその 時間における雲の様子を掲載する。なお全データは「第2部資料編」に掲載した。 雲の動き 北壁 東壁 南壁
am
5:30
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6:30
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7:30
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8:30
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4
4. 調査概要 4.3 調査結果
雲の動き 北壁 東壁 南壁
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4
4. 調査概要 4.3 調査結果
4.3.2 10 月 22 日の調査結果
雲の動き 北壁 東壁 南壁
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5:30
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4. 調査概要 4.3 調査結果
雲の動き 北壁 東壁 南壁
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4. 調査概要 4.3 調査結果
4.3.3 10 月 27 日の調査結果
雲の動き 北壁 東壁 南壁
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4. 調査概要 4.3 調査結果
雲の動き 北壁 東壁 南壁
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4. 調査概要 4.3 調査結果
4.3,4 10 月 28 日の調査結果
雲の動き 北壁 東壁 南壁
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4. 調査概要 4.3 調査結果
雲の動き 北壁 東壁 南壁
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5
分析・考察 5.1 データの整理
5.2 方角による比較分析・考察 5.2.1 方角による比較の分析 5.2.2 方角による比較の考察
5.3 天候による比較分析・考察 5.3.1 天候による比較の分析 5.3.2 天候による比較の考察
5.4 カラーチャート作成 5.4.1 カラーチャート作成方法 5.4.2 カラーチャートの見方
5 5. 分析・考察
5.1 データの整理
5.1 データの整理
本研究の調査では晴天時と曇天時の西窓採光における北、南、東の壁紙の色彩変化を動画 で撮影し jpeg 画像データを結果として得ることができた。これらの画像データから得られた 各壁紙モデルそれぞれについて RGB を抽出し、その RGB 数値から明度、彩度、輝度、色相を 算出し、分析していく。 ■ RGB 得られた画像の各コマの色の RGB の数値を Adobe ソフト photoshop を利用して一時間おきに 抽出し、以下のように表 5-1 のようにまとめた。本研究において、ディスプレイ上におけるオ リジナルの色彩の RGB 数値を or,og,ob とし、得られた画像データから抽出した RGB 値と比較 する。本調査で観察した 14 色の壁色モデルの or,og,ob は下記の通り。 白 (or,og,ob)=(255,255,255) 灰 (or,og,ob)=(158,159,159)
黒 (or,og,ob)=(0,0,0)
赤 (or,og,ob)=(230,0,28) 橙 (or,og,ob)=(243,152,0) 黄緑 (or,og,ob)=(143,195,31) 青 (or,og,ob)=(0,104,183) 牡丹 (or,og,ob)=(228,0,127)
緑 (or,og,ob)=(0,153,68)
藍 (or,og,ob)=(29.32.136)
黄 (or,og,ob)=(255,251,0) 水色 (or,og,ob)=(0,158,150) 紫 (or,og,ob)=(146,7,131)
紅 (or,og,ob)=(229,0,79)
一部抜粋したものであるが、表 5-1 は壁色モデル白における各方角での一時間毎の RGB 値 表にまとめたものである。 図 5-1 はそれを縦軸に RGB にそれぞれの数値 (0 〜 255) 横軸に時刻 (5:30 〜 17:30) を設定 して、折れ線グラフにしたものである。今回分析した全グラフデータは第2部資料編にて掲載 表 5-1 10 月22日における壁色モデル白の各方角での RGB 値 している。
北壁
東壁
51
南壁
5 5. 分析・考察
5.1 データの整理
北壁
東壁
南壁
図 5-1 10 月22日における壁色モデル白の各方角での RGB 値の折れ線グラフ
52
5 5. 分析・考察
5.1 データの整理
■明度、彩度、色相、輝度 前頁に記した RGB 値を元に色の三要素である明度、彩度、色相また輝度の数値を算出し、 表にまとめた。この算出結果を元にそれぞれをグラフに図化したものを用いて分析した。以下 がその一部であり、今回の分析に使用した全グラフデータは第 2 部資料編にて掲載している。
表5−210 月 27 日東壁における 壁色モデル白の明度、彩度、輝度、色相の数値の表
①明度 縦軸に明度の数値 (0 〜 255) 横軸に時刻 (5:30~17:30) を設定した折れ線グラフ
図 5-2 10 月 27 日東壁における 壁色モデル白の明度の折れ線グラフ
53
5 5. 分析・考察
5.1 データの整理
②彩度 縦軸に彩度の数値 (0 〜 1,0) 横軸に時刻 (5:30~17:30) を設定した折れ線グラフ
図 5-3 10 月 22 日東壁における 壁色モデル白の彩度の折れ棒グラフ
③縦軸に輝度の数値 (0 〜 255) 横軸に時刻 (5:30~17:30) を設定した面グラフ
図 5-4 10 月 27 日東壁における 壁色モデル白の輝度の面グラフ
54
5 5. 分析・考察
5.1 データの整理
④色相 縦軸に色相の数値 (0 〜 360) 横軸に時刻 (5:30 〜 17:30) を設定した棒グラフ
図 5-5 10 月 27 日東壁における 壁色モデル白の色相の棒グラフ
55
5 5. 分析・考察
5.1 データの整理
図 5-5 の色相と時刻グラフであるが棒グラフの棒の先端の背景の透けている部分の色がその 時刻における RGB の純色に対応している。
図 5-6 10 月 27 日南壁における 赤の壁紙モデルの⑤の棒グラフ
例として図5−6の 10 月27日南壁の壁紙モデル白の色相と時刻の棒グラフを掲載した。 5:30 での棒グラフの A の部分がその時刻に見えている赤の壁色モデルの属する色相の純色を 表している。この場合は橙色なので、この時間帯における赤の壁色モデルが属している色相の 純色は橙色であることを示している。ただし色相の純色であるので、このグラフでは実際に見 えている色を示しているわけではない。実際に見えている色はこれに更に彩度や輝度を考慮し なければ表すことはできない。 従ってこのグラフが示しているのは 5:30 では橙色、また 6:30 〜 14:30 と 6:30 では赤色、 17:30 では青色に赤色の壁紙モデルの色相が属しているということである。
これらの分析データをもとに次頁より ・方角の観点 ・天候の観点 以上2点から考察していく。
56
5 5. 分析・考察
5.2 方角による比較分析・考察
5.2 方角による比較分析・考察 5.2.1 方角による比較の分析
得られたグラフや表のデータを用いて方角による比較分析を行った。これらのデータから、 東壁が北壁、南壁に比べて極めて明度と輝度が高いことが判明した。 例として 10 月 22 日の壁色モデル黄色の②から⑤ののグラフを掲載する。
図 5-7 10 月 22 日における壁色モデル黄色の各壁の明度のグラフ (左:北壁 中:東壁 右;南壁)
図 5-810 月 22 日における壁色モデル黄色の各壁の輝度のグラフ (左:北壁 中:東壁 右;南壁)
図 5-9 10 月 22 日における壁色モデル黄色の各壁の彩度のグラフ (左:北壁 中:東壁 右;南壁)
図 5-10 10 月 22 日における壁色モデル黄色の各壁の色相のグラフ (左:北壁 中:東壁 右;南壁)
57
5 5. 分析・考察
5.2 方角による比較分析・考察
明度と輝度両方について北壁と南壁に関しては 5:30 から 7:30 にかけての上昇量は大きい が、7:30 を過ぎると緩やかに上昇するようになり、10:30 に 150 前後のピークを迎えた。そ して 16:30 までにかけて緩やかに下降するがそれを境に 17:30 に一気に減少の一途を辿った。 一方、東壁に関しては 5:30 から 7:30 にかけて一気に、そして 10:30 まで緩やかに上昇し てピークを迎えた。これは北壁、南壁に見られた傾向と同じだが、変化量にかなり差があり、 200 過ぎの数値を記録した。それからは 14:30 に一度数値が落ち込んではいるものの、15:30 までほぼ一定であった。そしてそれを境に 17:30 まで一気に減少した。 しかしその他の彩度や色相など色味に関する要素については明度や輝度のような著しい差は みられなかった。 以上から東壁が北壁、南壁に比べて極めて明度が高いということが判明した。 本項では例として最も顕著にこの現象が見られた壁色モデル黄色についての分析データを掲載 したが、他の色に関しても共通して言える。
58
5 5. 分析・考察
5.2 方角による比較分析・考察
5.2.2 方角による比較の考察
方角による比較分析において東壁が北壁と南壁よりも明るいという事が判明したが、この理 由は以下のことが考えられる。 今回の調査場所の唯一の採光が東壁の向かいにあたる西壁に備え付けられていたことが挙げ られる。光は空気中を直線上に進むために、窓に対して側面に位置する北壁や南壁よりも、東 壁に届く単位面積あたりの光の量は多いと考えられるためである。 以上の理由より今回の分析として東壁が北壁、南壁よりも明るく観測されたと考えられる。 数値の最大値は違えど、ピークを記録した時間帯や変化の仕方は北壁と南壁と似通っているの で、北壁、南壁、については方角による傾向や違いはあまりないものと推察される。
59
5 5. 分析・考察
5.3 天候による比較分析・考察
5.3 天候による比較分析・考察 5.3.1 晴天時と曇天時における比較の分析
得られたグラフや表のデータを用いて晴天時と曇天時における比較分析を行った。図 5-5 の 色相と時刻グラフであるが棒グラフの棒の先端の背景の透けている部分の色がその時刻におけ る RGB の純色に対応している。 これらのデータから、大きく次の2つの事実が判明した。 一つ目は曇天時の明度・輝度にはばらつきがあるが、晴天時は日の出、日の入りを除く時間 帯での明度・輝度はほぼ一定ということ。 二つ目は晴天時の 15:30 前後においてどの壁色モデルも R の数値がどの色も晴天時はほと んどの色が上昇しているが、曇天時では減少しているということ。 次ページよりこの二つの分析内容を掲載した。
60
5 5. 分析・考察
5.3 天候による比較分析・考察
■明度・輝度における比較 例として 10 月 22 日と 10 月 28 日の壁色モデル白の南壁における分析データ②、④のグラ フを掲載する。
図 5-11 曇天 10 月 22 日の北壁における
図 5-12 晴天 10 月 28 日の北壁における
壁色モデル白の明度のグラフ
壁色モデル白の明度のグラフ
図 5-13 曇天 10 月 22 日の北壁における
図 5-14 晴天 10 月 28 日の北壁における
壁色モデル白の輝度のグラフ
壁色モデル白の輝度のグラフ
図 5-12 と図 5-14 のグラフより晴天時では明度・輝度ともに 5:30 〜 6:30、16:30 〜 17:30 の日の出、日の入り時間を除いて一定であることが読み取れる。 一方図 5-11 と図 5-13 のグラフよる曇天時では明度・輝度ともに 5:30 〜 6:30、16:30 〜 17:30 の日の出、日の入り時間以外にも 10:30 にピークを記録するなど晴天時と比較して一 定でないことが読み取れる。
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5 5. 分析・考察
5.3 天候による比較分析・考察
■ 15:30 の時点での比較 例として 10 月 22 日と 10 月 28 日の壁色モデル白の北壁における分析データ①を掲載した。
図 5-15 曇天 10 月 22 日の北壁における RGB 数値 ( 左から白、橙、 、紫 )
図 5-16 晴天 10 月 28 日の北壁における RGB 数値 ( 左から白、橙、紫 )
図 5-15 と図 5-16 のグラフから曇天の場合 15:30 の時点で R の数値はどれも減少しているが、 晴天の場合 R の数値がどれも上昇していることが読み取れる。 また 15:30 の間に R の数値の変化によって彩度や色相にも傾向がないか分析を行った結果、 晴天時のみ、その傾向が色別にグループ化することが可能なことが判明した。以下に示したの がそのグループの内訳である。 <晴天>
グループ A 白、灰 グループ B
赤、紫、牡、紅
グループ C 橙、黄色、黄緑、 グループ D 水色、青、藍
62
5 5. 分析・考察
5.3 天候による比較分析・考察
<グループ A >晴天時、彩度・色相ともに時間帯に関わらず、変化が大きく、また特に 15:30 において彩度は最大値、色相は R 領域に属しているグループ。
図 5-17 晴天 10 月 28 日の南壁における彩度のグラフ ( 左から白、灰 )
図 5-18 晴天 10 月 28 日の南壁における色相のグラフ ( 左から白、灰 )
白色において 5:30 〜 11:30 の間、彩度は 0.1 以下という低い数値を保った。11:30 を過ぎ ると 15:30 にかけて上昇した。特に 15:30 での上昇が顕著で最大値 0.34 を観測した。そして 16:30 以降は急激に 0.15 以下に減少した。灰色において彩度は 5:30 〜 12:30 の間、6:30 で 一度 0.25 の値を記録したが、だいたい 0.1 から 0.2 までの数値を記録し、13:30 〜 14:30 の 間で 0.1 以下に減少、そして 15:30 で急激に上昇し最大値 0.28 を観測した。そして 16:30 に かけて減少、それから 17:30 までは上昇を記録した。以上が図 5-17 で読み取れた。 色相に関してはどちらも共通して、14:30 から 15:30 にかけて B 領域から R 領域へと移行 していることが図 5-18 から読み取れた。
63
5 5. 分析・考察
天候による比較分析・考察 5.3
<グループ B > 晴天時において日の入り、 日の出時間帯を除くと属している色相、彩度がほぼ一定であるグルー プ。
図 5-19 晴天 10 月 28 日南側における彩度のグラフ ( 左上 : 赤 右上 : 紫 左下 : 牡丹 右下 : 紅 )
図 5-20 晴天 10 月 28 日南側における色相のグラフ ( 左上 : 赤 右上 : 紫 左下 : 牡丹 右下 : 紅 )
64
5 5. 分析・考察
5.3 天候による比較分析・考察
図 5-19 よりグループ B のどの色も 6:30 〜 15:30 の間彩度は一定であることが読み取れる。 また、16:30 に少し減少して 17:30 に 0.1 〜 0.2 辺りの数値を記録したことも読み取れた。 図 5-20 よりグループ B のどの色も 5:30、17:30 を除いた時間帯は一定であることが読み取 れる。また詳しく見ると 15:30 の時点で赤の壁色モデルに関してはマゼンダ属性から赤属性 に移行し、その他の3色に関してはマゼンダ属性の中でも数値を上げ極めて赤属性に近づいた ということが読み取れた。その様子を図 5-21 で表した。この図の場合、五角形のマークが赤、 丸のマークが紫、牡丹、紅の色相変化のイメージである。
0
60
a
nd
ge
Re
d
Ma
300
Blue
an
n
Cy
ee
Gr
240
Yellow
120
180
図 5-21 グループ B の 14:30 から 15:30 にかけての色相変化のイメージ
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5 5. 分析・考察
天候による比較分析・考察 5.3
<グループ C > 晴天時において 15:30 での彩度の数値が最大値をとるが、日の出、日の入りの時刻を除けば 色相はほぼ一定であるグループ。
図 5-22 晴天 10 月 28 日南側における彩度のグラフ ( 左 : 橙 中 : 黄色 右 : 黄緑 )
図 5-23 晴天 10 月 28 日南側における色相のグラフ ( 左上 : 橙 中 : 黄色 右 : 黄緑 )
図 5-22 のグラフよりグループ C の色の彩度は 6:30 から 12:30 まで一定であるが 13:30 か ら 15:30 にかけて上昇して 15:30 に最大値をとるということが読み取れた。 図 5-23 のグラフより日の出、日の入りの時刻である 5:30、17:30 を除いた時間帯 6:30 〜 16:30 においてはほぼ一定であることが読み取れる。また詳しく見ると 15:30 の時点で黄色 属性の中でも数値を上げ極めて赤属性に近づいたということが読み取れた。
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5 5. 分析・考察
5.3 天候による比較分析・考察
<グループ D > 15:30 での彩度の数値が他の時間帯と比較して非常に少なく、他のグループとは異なり、 11:30 〜 12:30 の正午前後に彩度の最大値をとるが、日の出、日の入りの時刻を除けば色相 はほぼ一定であるグループ。
図 5-24 晴天 10 月 28 日南側における彩度のグラフ
( 左 : 水色 中 : 青 右 : 藍 )
図 5-25 晴天 10 月 28 日南側における色相のグラフ ( 左 : 水色 中 : 青 右 : 藍 )
図 5-24 のグラフよりグループ D の彩度は 5:30 から 12:00 にかけて上昇し、12:00 に最大 値をとり、それから 15:30 に下降し 15:30 に最小値をとった。また 16:30 上昇して 17:30 に てまた減少したことが読み取れる。 図 5-25 のグラフにより日の出、日の入りの時刻である 5:30、17:30 を除いた時間帯 6:30 〜 16:30 においてグループ D の色相はほぼ一定であることが読み取れる。
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5 5. 分析・考察
5.3 天候による比較分析・考察
5.3.2 天候による比較の考察
■明度・輝度における比較の考察 分析により曇天時の明度・輝度にはばらつきがあるが、晴天時は日の出、日の入りを除く時 間帯での明度・輝度はほぼ一定ということが判明した。この理由として雲の量が影響している と考えられる。 日中であっても撮影場所上空で雲があると太陽光が遮られてしまい、人口照明を用いない室 内では明度が下がってしまう。またその時上空にある雲の量はランダムであるので、日中にお いて光の遮られ方も不規則となり雲の多い曇天時には明度・輝度にばらつきが生じ、対して雲 の少ない晴天時にはほぼ一定となったと推察できる。
■ 15:30 にの R の数値における天候による比較の考察 晴天時において 5:30 前後において R の数値がどの壁色モデルも晴天時はほとんどの色が上 昇しているが、曇天時では減少しているということが判明し、また晴天時のみ色別にグループ 化することが可能なことが判明した。この理由として夕方時の強い西日が影響していると考え られる。 夕方時の西日の光の色温度は低く赤みを帯びている。したがって 10 月後半で西日がさすの が 15:30 頃であるから、この時間帯に晴天時は R の数値が増加したと考えられる。また曇天 時に減少がみられたのは、日の入りの夕方時、雲によって西日が遮られてしまうためと考えら れる。
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5 5. 分析・考察
5.3 天候による比較分析・考察
以上の考察をした上で天候による壁紙の色彩変化の傾向として ・西壁採光において、北壁、南壁、東壁で比較すると 南北では差がみられないが東壁のみ明度が高くなる。 ・曇天時では雲によって光が遮られてしまうので色の変化は 雲の動きの影響を大きく受ける。 ・晴天時では西日によって色相が赤に近づく色とそうでない色が 存在し、その変化の仕方によって規則性があり、4 つのグループに分けられる。 以上3つのことが言えると考えられる。
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5 5. 分析・考察
5 .4 カラーチャート作成
5.4 カラーチャート作成 5.4.1 カラーチャート作成方法
前頁の分析、考察により各壁紙の色の変化の仕方が明らかになった。これらのデータを用い て時間、方角、天候を考慮した従来とは異なる壁色のカラーチャートを作成する。 なおこのカラーチャートは本研究の調査、分析、考察で得た数値と傾向にそって作成する。 方角においては北壁と南壁とでは色彩変化に差が見られないという傾向 天候において曇天と晴れの日で変化の仕方が全く異なるという傾向から A 曇りの日の東壁 B 曇りの日の南壁と北壁 C 晴れの日の東壁 D 晴れの日の南壁と北壁 以上4通りのカラーチャートを作成し、1枚にまとめることで「その時、その場所で、その人 に寄り添う色」を把握することができる。そのためには分析時よりも細かく色を提示する必要 があると考え、10 分毎の変化を示した。 また A については 10 月 19 日、22 日の東壁 B については 10 月 19 日、22 日の南壁、北壁 C については 10 月 27 日、28 日の東壁 D については 10 月 27 日、28 日の南壁、北壁 のデータをもとに作成した。
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5 5. 分析・考察
5.4 カラーチャート作成
以下作業の手順を記す。 Ⅰ .photoshop を用いて各壁色モデルの RGB の数値を 10 分毎に jpeg 画像から抽出する。 Ⅱ ABCD の RGB 値データの平均値を算出する。 具体的には A の場合 10 月 19 日、22 日の東壁の 2 種類 B の場合 10 月 19 日、22 日の南壁と北壁の 4 種類 C の場合 10 月 27 日、28 日の東壁の 2 種類 D の場合 10 月 27 日、28 日の南壁と北壁 の 4 種類 以上のデータからそれぞれの RGB 値の平均値を算出した。 Ⅲ . 得られた RGB の平均値を色に変換して図 5-26 のカラーチャートの雛形のマスに一色づつ プロットしていく。尚この雛形のマスは一つ当たり 10 分の大きさとなっている。 Ⅳ . 雛形にプロットしたものを重ね合わせ一枚にまとめる。 次頁に今回作成した壁色モデル白のカラーチャートを例として掲載する。 また作成した全カラーチャートは第3部カラーチャート編にて掲載する。
図 5-26 カラーチャートの雛形
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5 5. 分析・考察
5.4 カラーチャート作成
5.4.2 カラーチャートの見方
1周で 24 時間の壁色の変化を表している。
図 5-27 壁色モデル白のカラーチャート
以下このカラーチャートにおける見方を説明する ①時刻を表している。各数字は 0 時、6 時、12時、18時を意味している。 ②天候を表している。clear が晴れ、cloud が曇りを意味している。 ③方角を表している。東 / 南北の2通りを作成した。 East が東、South and North が南北を意味している。 ④壁色モデルにおけるオリジナルの RGB 値を示している。 また背景の色は表記されているオリジナルの RGB 値での色を採用し、 各マス中の色と比較することで壁色モデルの色が表情豊かに変化していることが 一目でわかる。
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まとめ 6.1 結論 6.2 展望
6
6 6 まとめ
6,1 結 論
6.1 結論
本研究により、室内の壁紙について、一日の時間帯によってどのように色が変化しているの かを明らかにすることができた。以下に、明らかになった具体的な点を記載する。 ・西壁採光において、北壁、南壁、東壁で比較すると 南北では差がみられないが東壁のみ明度が高くなる。 ・曇天時では雲によって光が遮られてしまうので色の変化は 雲の動きの影響を大きく受ける。 ・晴天時では西日によって色相が赤に近づく色とそうでない色が 存在し、その変化の仕方によって規則性があり、4 つのグループに分けられる。 また、この結果をもとに、 「その時に見える色」を表したカラーチャートを作成することが できた。このカラーチャートは従来のカラーチャートでは表現できなかった、時刻による変化 や天候、方角による変化の特性を一目で把握できるようにしたという点で新規性があるといえ る。
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6 6 まとめ
6.2 展 望
6.2 展望
本研究で明らかとなったのは 10 月下旬の晴天時と曇天時における西窓一面のみの採光のあ る間取りでの壁紙の色彩変化である。季節により日の出、日の入りの時間は変わり、更に湿度 によって色の見え方は変化する。したがって汎用性を持たせるためには、季節による違い、雨 や雪などの天候での違い、他の間取りでの違い等を今後調査実験等を行う必要がある。また壁 の材質によっても見え方は異なるのでこちらも考慮する必要である。 また今回東壁の撮影に使用していたビデオカメラがのうち一つが古く、他の二つのビデオカ メラよりも露光量が多かったため東壁の画像だけ若干荒く、全体的に白っぽく仕上がっている。 したがって得られたデータには若干の不備があったと推察される。今後は同じカメラを用いて 調査し、正確なデータ採集を行う必要がある。
近年、色は精神的、身体的に人間に影響を与えていることが判明している。この事実と今回 の研究で作成できたカラーチャートを用いて、より施主や、その空間の利用者が真に精神的、 身体的に欲している壁色を提案できる可能性を私は感じている。これは施主や利用者が何時に その空間で何をして、どんな状態を望むのかということと、今回作成したカラーチャートを用 いればその時間に利用者の条件に最も合う色が見える壁色を提案できるのではないか、という ことである。 例えば、午前中仕事、午後は休憩、趣味に使う空間があるとする。この場合は壁色に白を提 案するのがよい。それには以下のことが根拠として挙げられる。カラーチャートをみると白色 は日の出以降の午前中では青みが増し水色に、13:30 を過ぎた辺りから赤みが増し、橙色にみ えるということがわかる。青系の色は心を鎮めるという作用から、知的作業を行う際に目にす るとよいとされている。一方橙色は人の心を暖かく包み込み、楽しい気分にさせてくれる作用 を持っている。このことから、午前から、午後にかけて水色から橙色に変化する白色は、午前 に仕事、午後には休憩や趣味を行う空間の壁色に適しているといえるだろう。 また逆にカラーチャートを用いれば一色の壁色から、時間による空間の用途を考えることも できる。 例えば黄色の壁色の部屋があるとする。カラーチャートを用いるとこの黄色の壁色は橙色に 見える時間帯があることがわかる。黄色には論理的思考能力を活性化する作用、橙色に食欲を 増進させ元気にさせてくれる作用がある。ゆえに黄色に見える時間帯には学習の時間に、橙色 に見える時間帯には食事の時間に適していると言える。したがって、ある一色が決められた状 態でカラーチャートを用いれば、時間による空間の用途をデザインすることが可能であると言 える。
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6 6 まとめ
6.2 展 望
また壁色、建築、空間デザインという枠組みにとらわれず、もっと広域な「デザイン」とい う枠組みにおいてこのカラーチャートにはさまざまな可能性がをもっていると私は思う。例え ば衣服。店で試着した時と家で試着したときの色味の違いを感じて後悔したことはないだろう か。カラーチャートの時間の軸を照明の種類に変換することで、様々な状況下でのその服の色 味を知ることができ、他の場所でその服を着ている自分をよりリアルにイメージすることの手 助けになる可能性がある。 このカラーチャートの最大の利点はある一色がどのように変化していくのかを一目で確認でき ることである。活用法はまだまだ考える余地があるので今後も新たなアイディアを生み出して いきたい。
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参考文献
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